広野町認定こども園
海と山の風景に寄り添う、低く伸びやかな園
福島県双葉郡広野町の認定こども園です。
大震災後の復興のシンボルとして、保育園から高校までの教育施設を海の見える高台に一堂に集め「教育の丘」とする構想が立ち上がり、その一環として、2016年秋に町立の既存の保育園と幼稚園を一つのこども園として統合新築するプロポーザルが行われました。そこで私たちのチームが選定され、設計を行うことになりました。
対象敷地に隣接する、児童館、保健センター、町営グラウンド、中高一貫校などと、機能的にも風景としても連続感をもちながら、広野町の原風景である海と山を感じられる園舎を目指しました。
この建物は、教育の丘を登ったときに最初に見えてくるいわば「教育の丘の玄関」とも言える場所に建ちます。そこで屋根の高さを低く抑え、建物の存在感をささやかにすることで、道路からも奥の山々が望め、他の建物からの視線を遮ることもなく、丘のどこからでも海と山が感じられる環境を作りたいと考えました。
低く抑えた木造屋根は、子どもが安心できる目線やスケール感としながらも、こども園として重要な安全・安心の確保にも役割を果たします。深い軒は園内と周辺環境との適度な距離感を保ちながら、子どもの遊ぶ気配が園外からも感じられる、距離を保った開き方、を実現しました。
先生が子どもを見守りやすい職員室を中央に据えたコの字型ゾーニング、屋根の隙間からの採光、諸室の必要天井高さの違い、室内外を繋ぐ軒先空間などから、ゆるやかに流れる大きな屋根が構想され、雛鳥を守る親鳥の両翼のような姿になりました。100×100のサイズの鉄骨柱群は、構造強度を持ちながら木造的軽やかさで室内に開放感をもたらし、外と一体化できる遊戯室は子どもの行動を拡張し、園庭の起伏は自然環境のような遊び場となります。
町の未来を担う子どもたちが最初に触れる公共施設として、園児からは周辺の建物やグラウンドを訪れる人々やさらにその向こうに広がる海や山々を感じられ、町に暮らす人々にとっては、日常風景の中に子どもたちの姿が身近に感じられる、そんな日常を望んでいます。子どもからお年寄りまでの世代を繋ぎ、町の人々の多様性を受け止めてくれるこども園であればと願っています。
(岩根敦+藤野高志(生物建築舎))
施設概要
- 場所
- 福島県双葉郡広野町
- 用途
- 幼保連携型認定こども園
- 竣工年月
- 2019年3月
- 延べ面積
- 1246.15㎡
- 構造
- 木造一部鉄骨造
- 階数
- 地上1階
メディア掲載
- 建築ジャーナル(2021年1月)
- 新建築(2020年10月)
- GA JAPAN162(2020年1月)
- GA JAPAN146(2017年5月)
受賞歴
- 2021年
- 令和3年度日事連建築賞(一般部門・奨励賞) 第37回福島県建築文化賞優秀賞