今期は会社からの研修補助を、在職のまま進学した大学院博士課程での「子どもの居場所研究」調査交通費費や通学のための交通費の一部に充てさせていただきました(進学の経緯についてはこちら「古川医療福祉設備振興財団の研究助成に採択されました」を参照ください)。
建築史を専攻していた修士課程時代と大きく異なる既往研究の読み込み、初めての研究助成への応募、子どもの居場所を対象としたアンケート調査の準備、Matterportを利用した3Dスキャン設備の導入など、業務との両立は大変ではありましたがチャレンジの連続となり非常に刺激的でした。
具体的な研究成果については今後投稿する論文を通して公表する予定です。
研究対象施設に対して行なったヒアリング調査(現在も進行中)では、施設運営者の方々から居場所を設置した背景から施設の運用のことまで貴重なご意見をいただいております。
ある運営者の方の「(特に家庭環境や本人の発達障害等から困難な状況にある)子どもの居場所は成果の定義が難しいため自治体から継続的に補助金が得られるか不安がある」というコメントは印象に残っています。
テストの点や出席率の向上だけで成果が出ているとは限らない、またそれらの数値に変化がなくてもよい方向に向かっているという評価されるべきケースもあるということです。
安全性や温熱環境などの性能的な要素を別にすれば、子どもの居場所のために建築設計ができることについても同じことが言えるのかもしれません。
定義が難しい要素や空間を正しく評価することで研究+実践の立場からも社会貢献ができればと思います。
遠方での調査の際は、可能な限り建築作品やその場所の名所にも足を運ぶようにしました。
研究テーマの設定として「改修による居場所の整備」に特に注目していたので、既存との関係を模索している下記の2作品が特に気になりました。
●長野県立美術館@長野県
前方に善光寺、隣接して東山魁夷館と公園が存在する優れたロケーションと敷地の高低差を生かした3つのレベルを設けて、階段・連絡ブリッジでつなぐプロポーザル時からの提案に細部まで忠実に設計されています。
連絡ブリッジを美術館に入り通常の床にするのではなく、吹抜けにかかるブリッジのように見せることでより軽やかな印象としているように感じられました。
●東神楽町複合施設@北海道
既存庁舎の周囲に円環状の渡り廊下が廻らされ文化ホールや診療所などの公共施設が増築されたプロジェクトです(見学時は工事中)。
既存も含めた各棟からなる施設の外観は「群れ」が存在するような独特の雰囲気を感じさせます。
一方で、渡り廊下の円環により庁舎の権威的な正面性もあいまいになり、人々の立ち寄りやすい施設になりそうで興味深かったです。
最後になりますが、リモートという環境でも丁寧にご指導いただいている指導教員の竹宮教授と研究の進め方についてのご助言や作業をお手伝いいただいている研究室の皆様、そして進学にご理解くださった会社の皆様に感謝します。